誰しも一度は「あてもなく遠くへ行きたい」と思ったことがあるだろう。そしてすぐに、「でもお金がないから…」と考えを一蹴したはずである。
お金がなければあてのない旅すらできないのだろうか。
もし遠くへ行きたい「だけ」なのであれば、私から大回り乗車を最善の選択として提案したい。
字面だけを見ると”1000円はくだらない長距離切符を必要とするのではないか”と言われそうだが、実際に必要なものは出発する駅(例:吉塚)から隣の駅(例:博多)までの200円もしない片道切符だけだ。今回は、いわゆる「お隣切符」の隠された使い道を紹介する。
この大回り乗車とは、簡潔に言えば、大都市近郊区間(東京、新潟、仙台、大阪、福岡に設定)の範囲内で乗車駅から降車駅までを遠回りすることだ。一番わかりやすいのが山手線で、例えば東京駅から隣の神田駅までの運賃は内回りでも外回りでも変わらない。これを拡大解釈したのが大回り乗車で、東京駅から東海道本線、川崎駅から南武線、立川駅から中央線のように回っていくこともできる。この際支払う運賃も東京から神田までを最短距離で移動した際と同じである。
このような大回り乗車をするにあたって守らなければならないルールは主に3つ。
- 大都市近郊区間の範囲内で行うこと
- 途中の駅で改札を出ないこと
- 一度通過した駅を再び通らないこと
1.大都市近郊区間の範囲内での乗車
さきほど触れたように、大回り乗車はあくまで「大都市近郊区間」と呼ばれる東京・仙台・新潟・大阪・福岡に設定されたエリアでのみ実行することができる。大都市近郊区間内では、「実際の乗車経路に関わらず運賃は最短経路で計算する」という特例が認められる為だ。
例えば福岡の大都市近郊区間は下図の通り。この範囲を逸脱しない限りはどのルートで隣駅まで行こうと自由である。
ちなみに、ICカードを使うとエリアが拡大される。(2024年4月現在、日田彦山線の夜明~田川後藤寺は乗車可能エリアから外れています。)
2.途中駅で改札を出ない
この理由は単純で、例えば大分駅で改札を出ようとすると、「(建前上)博多から吉塚まで最短距離で移動しているはずなのになぜ大分に?」となるからである。
この説明で気づいた方もいると思うが、すなわち観光のための出札も認められないということである。大回り乗車とは、本当にただ鉄路を使って遠くへ行きたい人の為のツールなのだ
3.二度同じ駅(線区)は通らない
図1で例を挙げると、博多→西小倉→城野→新飯塚→折尾→博多のルートはNGということだ。大回り乗車のルートは必ず起点から終点まで一筆書きで完結できるものでなければならない。
(4).その日のうちに改札から出る
近距離切符は効力が1日しかないので日付を跨ぐことがないよう注意。念の為。
基本的に、以上のルールを破らなければ大回り乗車は成立する。これらのルールを破った折には、キセル乗車の烙印を押されて実際の運賃との差額を払う羽目になるので注意。
いかがだろうか。制約はあるにせよ、ルールさえ守れば170円で福岡から大分や熊本に行けたり、大阪→奈良→京都→新大阪も170円で済ませられたりと、「遠くへ行きたい」という願いは意外と安く叶うものなのだ。
ただ、いくら安くてある程度の自由があるといっても、改札から出られない以上は所詮時間の浪費である。費用を貯めて飛行機や新幹線で行く旅行の方が遥かに楽しく、思い出にも残ると思う。
しかしまた、何も考えないでただ列車に揺られながら、駅中で買った弁当を片手に遠い土地の車窓を眺める旅というのも乙なものではないだろうか。
下は2年前の今日、実際に一日を潰した旅程。時刻表と睨めっこした記憶がある。