私が小学5年だった時の担任はギターが好きで、学活の時間に弾き語りをしてくれたり、毎日の帰りの会で彼や生徒が持ち寄った曲を一緒に歌う時間を設けたりしていた。
10年以上が過ぎた今では歌った曲の記憶も朧だが、米米CLUBの「浪漫飛行」のサビ、”トランク一つだけで浪漫飛行へIn the sky”の部分だけは今でもたまに口ずさむぐらい印象に残っている。もちろん当時は”トランク”の意味も”浪漫”が何なのかも分からなかったが、その染み入るようなメロディーとフレーズが幼心のどこかに響いていたのだと思う。
私は基本的にあまり物を持ち歩きたくない。歌詞に憧れてではなく、場が散らかったり鞄の中がかさばったりして余計な時間を食うのが耐えられないからだ。旅をするようになって、さらに物を持たなくなった。勝手が分からなかった当初こそ半身ほど丈のある重いリュックにありったけのものを詰めて旅をしていたが、回数を重ねるごとにどんどん身軽になっていった。
まず、衣服を複数持ち歩くことをやめるだけで大半の荷物は減る。ファンクショナルな服を着て、旅先の宿で洗濯すればいい。
洗面セットも抜いた。今の時代、たとえ北海道の秘境にある温泉でも最低限のアメニティは置いてくれている。特にタオルは、使い終わった後の処理を考えると多少金を払っても現地で借りてしまった方が安上がりだと思ってしまう。
雨具も同じくかさばる、出納が億劫などの理由で携行しなくなった。
やがて、たとえ身なりが醜くとも健康と清潔を保ち、写真を撮って寝れさえすればそれで良いという結論に達した。あるいはこれが自身の旅の快適性を担保する最低条件なのかもしれない。
いまや持ち出すのはトランクやリュックではなくA4サイズほどのクラッチバッグ一つである。中身は、財布、コンパクトデジカメ、充電用のコード、イヤホン、ハンカチ、モバイルバッテリー、身分証、保険証、クレカ、キャッシュカード、服用薬。なおゆとりがあるので時と場合によって+αで入れることもあるが(夏の制汗剤やトレッキング時のウィダーなど)、基本はこのぐらいである。
荷物の量を抑えると動きやすくて管理が楽だし、旅に出ようと思い立った際の心理的なハードルも下がる。
トランク一つ、クラッチバッグ一つだけで北海道中を飛び回れているのだから、現状はこれで落ち着いている。北海道にいるうちは多分変わらないだろう。
随分文章もコンパクトにまとまってしまったので、終わりに「浪漫飛行」のサビを据えておく。振り返った今でも改めて、いい歌詞とメロディーだなと思う。
その胸の中までも くもらぬように Right away
おいかけるのさ My Friend
トランク一つだけで 浪漫飛行へ In the sky
飛びまわれ この My Heart