一日の終わりを告げるかのように、夕焼けが万象を赤く染め上げている

一足早く帰る母を見送り、今しがた新千歳空港駅から南千歳駅に移動してきたところだ

ホームの待合室に腰をおろし、この先の長い旅程を眺めていると、新夕張駅までお世話になる特急おおぞらが4分遅れで入線してきた

GWだからか、結構な乗車率だ

自由席車両の空席を探している間に、特別急行列車は遅れを取り戻さんとするがごとく動き出す

南千歳を発った列車は千歳線・室蘭本線と別れ、札幌と帯広を短絡する石勝線に入っていく

目的地に近づくにつれ車窓から見る景色は紫がかり、広大な夕張川は薄暮の空を映すようになる

周りの乗客を見渡すと、大きな荷物を足元に置き、疲れきったように眠っている人が多いように見えた

追分駅で私の隣に乗ってきた客も、席に座って荷物を置くなりリクライニングを倒して直ぐにいびきをかき始めた

所々にトンネルを挟みながら、蛇行する夕張川を何度か渡っていると、「ようこそ、夕張へ」と書かれた看板が視界に飛び込んできた

錆が目立ち、逢魔時に目にすると一瞬ぎょっとするような風貌であった

ほどなくして紅葉山駅、もとい新夕張駅に到着

前日に雨が降っていたせいか、5月だというのにホームは凍えるほど寒い

視界の奥には3年前に廃止されたばかりの旧夕張支線のホームが来ぬ列車を待つように淋しく佇んでいる

無人の改札を通り外に出ると、宿泊先のユースホステルの送迎の車が停まっていた

車中で雑談を交わしながら宿へ

宿に着き、まずは部屋の鍵をもらった

そして簡単な館内の説明を受けたのち、ごゆっくり…と、つくねんと過ごすことを許可された

リビングのテーブルにはもう私の夕食が用意してあった

一旦部屋に荷物を置き、つかの間の休息

部屋は三角屋根の下に作った場所で、寝泊まりする分には不足なかった

ただし一度思い切り頭をぶつけたので油断は禁物

食事が用意してある下のリビングでは女性2人が談笑しており、一応髭は剃っていくことにした

しかし緊張からか、剃刀の扱いが荒くなってしまい、顎下を抉って出血してしまった

断っておくが女性に対して緊張しているのではない

結構深く抉ってしまったらしく、鮮血が吹き出す

ティッシュで止血を試みたが全く止まる気配はなく、仕方ないので完全に止まる前に諦めて下へ降りた

最低限の体面を保つつもりが、かえって髭を剃らない面よりも不格好になってしまった

食事は手羽先や肉じゃがなど、グルメというよりは家庭料理に近い内容だった

黙々と食べ進めていると、先程まで談笑していた年増の女性の方が、「ここのオリーブオイルは庭で採れたものから作っているから美味しいよ」と教えてくれた

オリーブを自家栽培とは恐れ入った

試しにサラダにかけてみると、渋みのありそうな香りがほのかに漂ってくる

オリーブオイルを生で口にする機会があまりないので味の良し悪しは評しがたいが、少なくとも自分の舌には合っていた

もしこの方が教えてくれなければ、普段通りに何の変哲もない胡麻ドレッシングをかけていたことだろう

それからは女性方と雑談を交えつつ完食し、挨拶とお礼を済ませて部屋に戻る

内開きのドアを閉め、鍵をかける

無為に天井を見上げる

明日はいよいよ廃墟だ

自分で決めたこととはいえ、暗澹たる気持ちになる

無事に帰れるだろうか

緊張の元凶、気はそぞろ、血など幾千幾万と目にしてきたであろう老婆をも同情せしめる惨めな様は、全てここのせいであるといえる場所に、明日は行くのだ

そんな恐怖に苛まれている私とは対照的に、窓の外には満天の星空が広がっていた

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